夜の旅、その他の旅

持ってるレコードとか日常とか。

ある家庭の祝日(仮)pt.1

今日は祝日。
子どもたちを連れてクルマで近場の遊園地に行った。
午前中早目に家を出てフードコートで適当にお昼を食べ、5時頃には園内の駐車場に向かう。
夕食は夫と子供たちが肉が食べたいというのでチェーン展開の焼き肉店に行き、みんなで8千円くらい食べる。
夫と私はビールの中ジョッキをそれぞれ2杯飲む。
帰り道、子どもたちは眠くなったのかやたらにハイテンションで騒ぎ、夫はイライラしているようだ。
ブレーキが遅いし、言葉にトゲがある。
私も免許がなくはないけどビールを飲んでいることもあって「運転替わるよ」とは言いだせない。



いったい彼はいつから酒を飲んでも運転するようになったのかな?




一瞬そんな考えが浮かんでふと口にしそうになるけど、結局言わない。




遊園地から家まではあっという間だ。
途中私鉄の駅を抜け、普段は結構混んでいる道路をひたすら北上する。
人気のある私立大の付属高校のある交差点をを抜けると車の数はぐっと減る。
あとはずっとまっすぐな道を北上すれば我が家。




子どもたちは、やめなさいって言ってるのに暗い中でDSでゲームをやっている。
助手席からふりかえって私が睨むたびにササっと隠すふりだけするけど、やめる気配はいっこうに無い。
このままじゃパパとおなじ近視は決定ね。彼も暗い中で本を読んでてドのつく近視になったらしいしね。




私が子供たちを振り返っては何度も注意しているうちに夫のカンに触ることがあったらしい。
彼はDVというほどではないがイライラすると暴言を吐くことがある。
「いいじゃねーか?お前の方がよっぽどウルセーんだよ!!」
言われて私も子供もドキッとするが、そんな気持ちを読まれたら夫がさらに荒れるのは経験上知っているのでなんでもなかったように「え、だって子供が近眼になったら困るじゃないよ!?」と軽い口調で言い返す。




「お前ってそういう言い方しかできないのな」と彼。
「一生そうやってひとのせいにしてろよ」
??子供も私も突然の論理の飛躍についていけない。
わかるのはとりあえずあと20分ほどの道程を静かに過ごした方がよさそうだという事のみ。




道は下り坂にかかる。
この坂を下ると右側に結構大きめのスーパーがある。
通路が広くて買い物しやすいし、2階は日用品売り場があるので、子どもたちの下着や靴下、猫の缶詰めなんかを買って行こうかという考えが突然よぎる。





なんといっても今日は車だから何を買っても持ち帰りの心配がない。
最近寒くなってきて、下の子の毛布も今は子供用のジュニアサイズだから大きい毛布に買い替えてやりたい。
ついでに買ってもいいかも。




色々考えている間にスーパーの前の信号で車は止まる。
赤信号で止まっている間に夫に「ねえ、ちょっとそのスーパーに寄っていきたいんだけど」と言う。




彼は何も言わずに突然前の車をかわすように大きく右にハンドルを切り、対向車のいない反対車線に躍り出る。




そのまま交差点に突入して右折し、横断歩道を通行中の初老の女性を轢いた。





彼女の持っていたスーパーの袋は今から行こうとしていた店のマークが入っており、横断歩道の白線上にはみかんや、ペットボトルの緑茶や豚肉やキャベツや缶ビール、つぶれたトマトなんかが散乱していた。
よく見ればうちの猫が食べているのと同じメーカーのキャットフードも放り出されている。
今から私が買おうとしていたのと同じものだ。




荷物は横断歩道に投げ出されているがその持ち主はスーパー側の歩道に5メートルほども戻されている。
生きている時は有り得ない様な形で。
私はすぐに車を降りた。
どう見てももう手遅れだとは思ったが携帯で救急車を呼ぶ。。




夫は車のドアのところで呆然としている。頼りになんねえ奴だ。




彼女は桜木 栄子という名前だった。
私たちが殺してしまうまでは。
もしかして私が彼女だったかもしれない。




フィクションです!